物流業・運送業の労災保険・賠償責任保険の選び方

物流業・運送業の労災・賠償リスクマネジメントまとめ

ここでは物流業・運送業で起こっている労災・賠償責任について隠れたリスクと対策について説明しています。

 

目  次
1.物流業・運送業の労災リスクと労災保険の選び方

   1-1 物流業・運送業の労災リスクまとめ

   1-2 物流業・運送業の労災で訴訟になるケース

   1-3 物流業・運送業の労災リスクに備える方法

   1-4 物流業・運送業の任意労災保険を選ぶ3つのポイント

2.物流業・運送業の賠償リスクと賠償責任保険の選び方

   2-1 物流業・運送業で生じる賠償リスクまとめ

   2-2 物流業・運送業の賠償で訴訟になるケース

   2-2 物流業・運送業の賠償リスクに備える方法

   2-3 物流業・運送業の賠償責任保険を選ぶ3つのポイント

 

 

1.物流業・運送業の労災リスクと労災保険の選び方

1-1 物流業・運送業の労災リスクまとめ

 物流業・運送業で発生している労災事故の特徴として以下の3つの事故が代表的です。

 

1.荷下ろし作業中などのケガ

フォークリフト作業中、荷下ろし、積み込中、などの業務の中でのケガ、腰痛、死亡、後遺障害の労災リスク。

(フォークリフトの操作誤りによる事故防止について参照:倉庫内でよくある接触事故~フォークリフト事故防止動画 第二弾~

労働基準法では、「重量物を取り扱う業務、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務その他腰部に過度の負担のかかる業務による腰痛」が挙げられています。トラックドライバーの腰痛は、これに該当することになりますので、労災保険の対象になります。

しかし、トラックドライバーの腰痛が全て労災保険が使用できるわけではありません。ポイントは業務を原因として腰痛になったかどうかと言うことです。腰痛で労災保険を使用するのであれば、運転業務が原因で腰痛となったことが必要となります。具体的に、業務に原因があると言えるのは、約3カ月以上、長距離運転手として稼働して、筋肉などの疲労により腰痛を発症した場合には労災保険の対象となるとされています。

2.トラック運転中の交通事故によるケガ

高速道路や踏切など、道路運転中の自動車事故によってケガ、死亡、後遺障害の労災リスク

 

3.過労による脳・心疾患や過度のストレスによるウツなどの精神障害

人手不足による過密スケジュール」や「荷待ち」「再配達問題」からくる拘束労働時間の長時間化によって起こる過労を原因とした脳血管疾患、虚血性心疾患、精神障害またはうつ病からの自殺などの非外傷性の「新型労災」リスク。これは全業種の中で最も高いのが物流業・運送業です。

 

 

脳・心疾患の請求件数の多い業種

   厚生労働省「過労死等の労災補償状況」平成27年、平成30年度 抜粋

 業種

(大分類)

業種

(中分類)

平成27年度 請求件数 平成30年度  請求件数
運輸業、郵便業 道路貨物運送業 133件 145件
サービス業

(他に分類されないもの)

その他事業 サービス業 48件 75件
宿泊業・飲食サービス 飲食店 38件 59件
建設業 職別工事業(設備工事業を除く) 38件 39件
建設業 総合工事業 48件 38件

 

 

1-2 物流業・運送業の労災で訴訟になるケースとは

労災の事故が起こったとき、労災保険で対応をすることになります。労災保険からはケガや病気(業務上の障害)に対して、治療費や休業補償、死亡の場合は遺族への年金などが支給されます。

 

しかし労災保険で補償できないのは訴訟による損害賠償請求です。労災保険からの補償で解決できないケースでは、会社に安全配慮義務違反の落ち度があれば、被災した従業員や遺族が会社や会社役員を相手取って損害賠償請求の訴訟にいたるケースがあります。

物流業・運送業で会社を相手取り起こされた労災事故の訴訟を以下に掲載します。


【1】超過勤務による会社・代表取締役・常務取締役に対する損害賠償訴訟(平成18年4月東京地裁)

賠償額:5,044万円

事案概要:トラック運転手であった故Aが高速道路を走行中、前方の大型貨物自動車に追突して死亡したのは、勤務会社、代表取締役および常務取締役が超過勤務をさせたためであるとして、連帯して損害賠償責任が認められた事案。

 

結論:勤務会社では、労使間の協議により時間外労働に関する協定が締結されておらず、就業規則も存在しなかったにもかかわらず時間外労働をさせており、故Aは事故前43日間で101時間25分の時間外労働をしていた。勤務会社ならびに運行管理の責任者である常務取締役は労働時間を管理して遵守すべき義務に違反した過失があるとされ、代表取締役はトラック運転手が時間外労働を行っていることを熟知していたにもかかわらず、常務取締役を指揮監督して従業員であるトラック運転手の運行管理を適正化させ、その健康に配慮すべきであったのにこれを怠った過失があるとされた。

長時間労働に加え、不規則な勤務もあり、上記43日間で自宅で休養できない日は18回あり、トラック内で睡眠をとるなど、故Aが重度の疲労状態により、注意力散漫・緊張低下状態に至り、本件事故が発生したと認められ、相当因果関係があるとされた。

 

本件では、会社だけでなく代表取締役と常務取締役の個人の賠償責任も認められた。

勤務会社と常務取締役は労働基準法にもとづき罰金刑に処されている。

 

 

【2】長時間労働に対する安全配慮義務違反による損害賠償(平成13年2月大阪地裁)

賠償額:4,649万円

事案概要:配送トラック運転手であった故Bが、勤務中駐車場に停めていたトラックの運転席で意識不明の状態で倒れ、急性心不全により死亡したのは長時間労働を放置したとして、勤務会社の安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められた事案。

 

結論:自動車運転は精神的緊張を伴う上、故Bが拘束時間外7年以上にわたり早朝から夕刻まで1日13時間を超え、かつ配送時間の厳守や積み降ろし作業、1か月に3日程度の休日などの慢性的な疲労状態であった。その後、故Aの要望により事故発生の4日前に新業務に変更となり、走行距離、拘束時間ともに短くなったが、新業務になった直後は運転車両や配送方法の変更等もあり、相当の精神的ストレスがあったものと認められる。そのような状況下で、故Aの有していた冠動脈硬化を自然的経過を超えて急激に著しく促進させたため、急性心筋梗塞により、本件発症に至り、その結果死亡したと認めるのが相当である。

勤務会社は、業務が過重であったことを容易に認識でき、過重な業務が原因となって、故Aが、心筋梗塞などの虚血性心疾患を発症し、ひいては故Aの生命・身体に危険が及ぶ可能性があることを予見し得たにもかかわらず、健康を損なうことが無いよう注意する義務に違反したとした。

 

本件では、故Bの希望により担当業務を変更したが、時期的に遅すぎ、安全配慮義務違反が問われた。

過重労働の蓄積による慢性的な疲労に精神的なストレスが加わったのが心疾患の原因とされた。

 

1-3 物流業・運送業の労災リスクに備える方法

物流業の労災リスクに対して、会社としてどのような対策をしておけばよいのかということについて説明します。

 

  1. 積荷作業中の事故を防止するための作業手順、安全確認を指導する。
  2. 運行に関しては、「過密スケジュール」「長時間拘束の労働時間」をさけるための運行計画にすること。
  3. 労災保険だけで対応できない部分をカバーするための任意労災保険に加入しておくこと。

などがあげられます。

しかし、不幸にして事故が発生してしまった時の対応としても考えておかなければなりません。

従業員が1人以上いる事業所は、労災保険に加入することが義務となっています。

この労災保険の趣旨は労働者の保護ですが、治療費の実費補償以外では、休業補償最低限の補償や死亡の場合の遺族への遺族年金などはそれまでの収入よりは、はるかに少ない金額の支給となります。そのため、その後の遺族の生活は困窮したものになる事は明らかです。

そこで遺族は、会社を相手取って損害賠償金請求の訴訟を起こすケースがよくあります。

 

その場合、労災事故での死亡等のケースで、会社側が遺族に支払うべき賠償金を計算した場合、労災保険の給付では大幅に不足する金額があります。それが【慰謝料】、【将来の逸失利益】の部分です。

 

【慰謝料】は世帯主など、収入の中心である「一家の支柱」の場合で2,800万円が弁護士・裁判所の標準的な基準額とされています。ただし事故が起こった状況や会社側の安全配慮義務の過失割合によって増減する可能性があります。

【将来の逸失利益】は、被災した本人が将来に向かって働いていたら得られたであろう収入の総額です。年齢やそれまでの収入によって金額を算出します。

 

まず【慰謝料】は労災では補償されていません(支払われません)ので、会社が自ら準備しなくてはなりません。

次に【将来の逸失利益】については、現在の年収、遺族の人数など、により遺族年金が支給されますが、それまでの収入よりも、はるかに少ない金額であること。ひとたび訴訟で裁判になった場合には将来にわたって労災保険から遺族に支給される予定の遺族年金は確定していないものであるため、会社が負担すべき損害賠償金から相殺することはできないことになっています(過去の裁判の判例)。そのため、逸失利益(遺族の将来にわたっての生活費等)については会社がほぼ全額を準備しなくてはならなくなります。

 

このようなことから、労災事故で【慰謝料】と【将来の逸失利益】について会社が損害賠償しなければならなくなった場合、労災保険では対応は出来ないので、自分の会社で、なんらかの備えをすることが必要になります。

 

現在、多くの会社がこの問題に備えるために、労災保険だけで対応せず、任意労災保険にも加入することで、あらゆる労災リスクに備える方法が一般的になっています。

 

【運送業の任意労災保険の特徴】

1.労災認定を待たずに保険金が受取れます。

2.保険金は契約者である会社が受取れます。保険金は従業員への見舞金や、亡くなった時には会社からの弔慰金として遺族支払ってあげることができます。

3.役員、従業員(アルバイト含む)、庸車まで、無記名で補償されます。

4.従業員の入れ替わりがあっても自動的に補償しますので、補償の漏れがありません。

5.会社が、労災事故で従業員や下請、またはその遺族からの慰謝料や将来の逸失利益について損害賠償請求から会社を守ることが出来ます

任意労災保険では、【慰謝料】【将来の逸失利益】の損害賠償金をカバー出来る物流業・運送業に適した任意労災保険に加入して備えておくことが賢明と言えます。

 

 

 

1-4 物流業・運送業の任意労災保険を選ぶ3つのポイント


会社として、積荷作業中の事故、運送中の自動車事故、長時間拘束労働による過労死など、を発生させないための措置を講じていても、万が一発生してしまったときに、労働者と会社の両方を守ることができる内容の任意労災保険を準備しておくことが大切です。

事故が起きて、高額な損害賠償金を支払わなければならないことになってから、実は国の労災保険では「補償されない」ということにならないようにしなければなりません。

 

「任意労災保険」選びの3つのポイントを説明します。

【ポイント1】遺族からの高額な損害賠償請求に対応できる使用者賠償補償が付いていること

使用者賠償補償は2億円以上の補償額が望ましいと思います。これは過去の労災事故の裁判の判決において2億円近くの場損害賠償判決が出されています。物流業・運送業の労災では、他の業種と大きく違うことは過労死発生件数が跳びぬけて多いことは前述しましたが、会社の仕事の過労で死んだ場合、遺族の心情では会社への心情は特別なものがあります。仕事の犠牲になって命を落としたことで、会社の対応次第では、抑えきれない遺族心情から会社を高額損害賠償で訴えることになります。この高額の損害賠償金の支払いが可能な補償額に加入しておく必要があります。

【ポイント2】自社の従業員以外の傭車の社員まで補償対象になっていること

物流業・運送業において、自社で受けた運送業務を協力関係の同業者に下請に出す場合で、その傭車の社員に労災事故が発生した場合にも、自社の社員同様に補償対象になっていることが必要です。

【ポイント3】労災保険の認定を待たなくても、保険金が支払われること

国の労災保険の認定が決定するまでには、数カ月以上かかることもあります。その間、会社からの金銭的な補償等が何もなかったとしたら、被災者や遺族の会社に対する心情は良いものとは言えなくなります。その感情のもつれや不安から賠償金訴訟に発展することも考えられます。事故が起こった時に素早く会社からの金銭的な補償や誠意を示すことは重要です。

 

【まとめ】

任意労災保険は民間の損害保険会社の代理店を通じて加入することができます。各保険会社とも補償内容は一見すると同じように見えるかもしれませんが、しかし実際には補償内容や保険料にかなりの違いがある場合があります。

自分の会社の業務内容に合った保険を選ぶことはもちろんですが、任意労災保険の保険料は掛捨てのため、保険料はできるだけ安くできる保険を選ぶことが賢明と言えます。

 


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物流業・運送業の賠償リスクと賠償責任保険の選び方

2-1 物流業・運送業で生じる賠償リスクまとめ

 

物流業・運送業における賠償リスクは多岐にわたります。大きく分けると以下の3つに分類できます。

 

1.運送中、仮置き中、保管中にかかわらず管理下にある貨物について、荷主から損害賠償を求められるリスク

 フォークリフトによる荷物の破損事故防止動画

2.貨物の事故が発生した場合に支出を余儀なくされる廃棄費用負担のリスク

3.輸送事故の発生によって、遅配となった結果生じる配達先の休業損失に対して損害賠償を求められるリスク

 

 

多くのケースは荷物であるモノに関する損害を賠償する必要性ですが、賠償保険でこれらの損害賠償に対応している会社が一般的です。

様々な種類の荷物を運搬するため、保険はその荷物の特性に合っていることと、あらゆる事故の原因にも対応できる賠償保険にしておくことが重要です。

 

 

2-2 物流業・運送業の賠償で訴訟になるケース

【1】輸送中の高額な貨物を全焼させ高額損害賠償 神戸地裁(平成6年7月)

賠償額:約1億3,000万円

事案概要:被告である運送会社Aのトラック運転者が、吸っていたタバコを運転席の床に落とした事に気を取られ、わき見運転となり、追突事故を起こし、その後にトラックは横転炎上し運送中の積荷である毛皮や呉服・紳士服を全焼してしまった。原告である荷主は高額な商品に関する損害賠償を求めて提訴した。

運送業者は、当初から億単位の高額な貨物であることを知らされていなかったことから商法「高価品の特則」による免責を訴えたが、裁判所の判断では、高額な貨物であることを伝えていれば損害を防げた可能性があるとして、荷主にも過失があるとして、請求額2億6,135万円の5割である1億3,000万円を容認額とした。

 

 

2-3 物流業・運送業の賠償リスクに備える方法

物流業・運送業の運送リスクに対応するために合理的な方法は、損害保険各社の物流業用賠償保険を活用することです。各保険会社が販売しており、補償内容はほぼ同じ内容です。保険料は会社の売上高や1輸送の最高金額をもとに計算されることが一般的です。

また、実際の保険料は保険会社によってかなりの違いが発生するケースがあります。

 

物流業・運送業の賠償責任保険で補償される事故原因

・火災・落雷

・輸送用具の衝突、転覆、脱線、墜落、不時着、沈没、座礁または座洲

・破裂、爆発

・風災、雹災、雪災、水災

・給排水管や温度調節装置などからの蒸気、水の漏水、溢水

・スプリンクラーからの内容物の漏出、溢出

・盗難

・破損、曲り損、凹み損、汚損

・汚損、擦損

・紛失、付着

・混入、汚染

温度変化損害は補償の対象外です。ただし冷凍・冷蔵装置が上記の原因で損傷し正常に作動しないことで生じた温度変化による損害は補償対象となります

 

物流業・運送業の賠償責任保険で補償されない事故原因

・虫食い、ネズミ食い

・自然の消耗、固有の欠陥

・荷造りの不完全

 

物流業・運送業の賠償責任保険で補償されない貨物の種類

・青果物、生鮮食料品、植物

・冷凍、冷蔵貨物、保温保冷貨物

・中古貨物

・引っ越し荷物、個人の家財

・バラ積み貨物、タンク入液状貨物

    ※オプション補償でこれらの荷物を補償することが可能なケースがあります。

2-4 物流業・運送業の賠償責任保険を選ぶ3つのポイント

ここでは、物流業・運送業の「賠償責任保険」を選ぶときの3つのポイントを説明します。

【ポイント1】客先での積荷作業中の事故に対応した補償であること

【ポイント2】自社の従業員以外の傭車の社員が起こした事故に対応できる補償であること

【ポイント3】自社が扱う貨物の種類に対応した補償であること

 

【まとめ】

物流業・運送業の賠償責任保険は民間の損害保険会社の代理店を通じて加入することができます。各保険会社とも幅広いリスクをカバーできる補償をラインナップしています。

一見すると同じように見えるかもしれませんが、実際には補償内容にかなりの違いがある場合がありますので、自社の業務範囲にあわせた補償内容の検討が必要となります。

また、賠償責任保険の保険料は掛捨てですから、保険料はできるだけ安くできる保険を選ぶことが賢明とも言えます。


 

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