宿泊業の労災保険・賠償保険の選び方

宿泊業の労災・賠償リスクマネジメントまとめ

 

目次
1.宿泊業の労災リスクと労災保険の選び方

   1-1 宿泊業の労災リスクまとめ

   1-2 宿泊業の労災で会社が訴訟に巻込まれるケース

   1-3 宿泊業の労災リスクに備える方法

   1-4 宿泊業の任意労災保険を選ぶ3つのポイント

2.宿泊業の賠償リスクと賠償責任保険の選び方

   2-1 宿泊業で生じる賠償リスクまとめ

   2-2 宿泊業の賠償リスクで高額賠償請求に巻込まれるケース

   2-3 宿泊業の賠償リスクに備える方法

   2-3 宿泊業の賠償責任保険を選ぶ5つのポイント

 

 

1.宿泊業の労災リスクと労災保険の選び方

 1-1 宿泊業の労災リスクまとめ

宿泊業の労災発生件数は、第三次産業のうち8%を占めており、増加傾向にあります。死傷災害の発生件数でみると平成20年4,055件から平成26年では4,477件となっています。

1.店内での業務で起こるのは、転倒、つまずき、やけど、刃物等による切傷などでケガや後遺障害にいたる外傷的な労災が52%と過半数を占めています。

事例:【転倒災害】ホールでお盆に辛子入れを乗せて両手で運んでいて、通路のワゴンに足を引っかけ転倒した

事例:【切傷】厨房でまな板を拭いていたところ、まな板の上に置いてあった包丁で手を切った

事例:【やけど】ホールのカウンターで味噌汁を鍋から保温器に移す際、味噌汁を足にこぼしてやけどを負った

【転倒】災害はケガ全体に占める割合が多く増加傾向にあります。【転倒】災害の特徴として高齢者が占める比率が高く、60歳以上が3割以上、50歳以上では6割以上を占めています。

 

 

2.発生件数の比率は低いものの、重大な問題に発展するのが、過労から脳血管疾患、虚血性心疾患、精神障害などの非外傷性の「新型労災」のリスクにかかるケースです。

スタッフ不足やシフトの埋め合わせのため、長時間労働や無休となってしまったことで、過労による脳卒中や心筋梗塞、過度のストレスからのウツなどの非外傷性の労働災害です。飲食業では、これらの「新型労災」のリスクが全業種の中でワースト3位になっている状況です。

脳・心疾患の請求件数の多い業種

       厚生労働省「過労死等の労災補償状況」平成27年、平成30年度 抜粋

 業種(大分類) 業種(中分類) 平成27年度 請求件数 平成30年度 請求件数
運輸業、郵便業 道路貨物運送業 133件 145件
サービス業

(他に分類されないもの)

その他事業 サービス業 48件 75件
宿泊業・飲食サービス 飲食店 38件 59件
建設業 職別工事業(設備工事業を除く) 38件 39件
建設業 総合工事業 48件 38件

 

特に2.の過労による心疾患からの突然死や、過度の業務ストレスからくる精神障害については、重大な労働災害であるため、労働者と会社にとって大きな問題となることから、訴訟問題に発展したケースもあります。

 

宿泊業の労災事故で会社を相手取り起こされた労災事故の訴訟を以下に掲載します。

 

 1-2 宿泊業や飲食サービス業の労災で会社が訴訟に巻込まれるケース

【1】元店長が飲食業の会社を相手取り、長時間労働に対する安全配慮義務違反による損害賠償を請求(鹿児島地裁 平成22年2月

賠償額:1億8,760万円

事案概要:飲食店を経営している会社に勤務し、店長として勤務していた原告A店長が、就寝中に心室細動を発症し低酸素脳症により意識不明で寝たきりの状態になったのは、長時間労働によるものとして、勤務会社の安全配慮義務違反による損害賠償責任が認められた事案です。

 

結論:

  1. 発症前、原告Aは203日間連続で出勤しており、時間外労働は発症1か月で176時間15分、本件発症前2ヵ月から6ヵ月で月平均200時間30分であり、長時間労働によって相当程度の疲労の蓄積があったと認めれる。また人手不足とノルマ等の制約の中で、精神的にも過重な負荷がかかっていたと考えられ、業務と本件発症との間には相当因果関係が認められるというべきであるとした。
  2. 勤務会社は就業時間を午前10時から午後11時までとした上で、従業員には、労働時間を8時間までに抑えたり、休憩を長くとったりするよう指導していたにすぎず、労働時間を管理する機能を有していない状態であったと言わざるを得ない。さらに時間外労働に対する賃金も一切支払われていなかった。勤務会社が原告A店長の過酷な労働環境に対し漫然と放置したとして、安全配慮義務違反があったことは明らかであるとされた。

本件では、政府労災からの年金支給分は損害賠償額から控除されず、損害賠償金が高額となっています。

さらに、原告A店長の介護のための両親に対する慰謝料も認定されています。

従業員の残業時間の管理、労働時間への配慮を怠ったことで、経営者の安全配慮義務違反を問われ、会社は高額な賠償金を支払わなっければならなくなったケースです。

 

 

 

【2】飲食店従業員の遺族が、会社に対して安全配慮義務違反および不法行為による損害賠償を請求(平成22年5月京都地裁)

賠償額:7,862万円

事案概要:飲食店に勤務していた従業員の故Aが自宅で急性心不全で死亡したのは、長時間労働によるものとして、勤務会社の安全配慮義務違反および取締役の会社法に基づく責任が認められた事案です。

結論:

  1. 故Aの労働時間は、死亡前の1か月間は時間外労働時間数103時間で、入社した4カ月間毎月80時間を超える長時間の時間外労働であった。また、立ち仕事であったことから肉体的な負担も大きく、心疾患は業務に起因するものとされた。
  2. 勤務会社は労働時間を把握し、長時間労働とならないような体制をとり、やむを得ず長時間労働となる時期があったとしても、それが恒常的にならないよう調整するなどし、労働時間、休憩時間および休日等が適正になるよう注意すべき義務があった。被告役員らの責任として、労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく、一見して不合理な体制(時間外労働として1か月100時間を6か月にわたって許容する三六協定を締結。基本給の中に、時間外労働80時間分を組み込み)をとっていたのであり、そてに基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから、被告取締役らは、悪意または重大な過失により、そのような体制をとっていたということが出来、会社法429条第1項に基づき任務懈怠があったことは明らかであるとした。

本件では、長時間勤務や休日労働への安全配慮義務違反だけでなく、不合理な給与体系を放置した不法行為に関する責任も問われた、悪質なものと言えます。

 

 

1-3 宿泊業の労災リスクに備える方法

では、宿泊業の労災事故に会社としてどんな備えをしておけばよいのかということについてです。

1.「危険の見える化」

職場にひそむ危険や安全のために注意すべき事項を見える化することで、効果的で安全な行動ができます。「安全な作業手順」や「危険ステッカー」を作成して、危険の認識や注意喚起をわかりやすく知らせることができます。作業を行う際の目に付くところに貼ることで、「見える化」しましょう。

2.「4S活動」

「整理」:必要・不必要なものを区分し、不要なものを取り除くことで、効率的で安全な作業ができます。

「整頓」:あらかじめ決めた場所に決めたモノを配置するルールを決めて実施することで効率的な作業ができます

「清掃」:水濡れ、油汚れなどをふき取り作業場所をきれいにしておくことで、滑りや転倒を防止することができます。「清潔」:用具や手、ユニホームを清潔にしておくことで、食中毒などの感染を防ぐことが出来ます。

3.労災発生時の対応(任意労災保険で備える)

労災の事故が起こったとき、労災保険で対応をすることになります。

労災保険からはケガや病気(業務起因性のある疾病)に対して、治療費や休業補償、年金が支給され、死亡の場合は遺族への年金などが支給されます。

労災保険は必須で加入することになっています。労災保険の趣旨は労働者の保護ですが、治療費の実費補償以外では、休業補償最低限の補償や死亡の場合の遺族への遺族年金などはそれまでの収入よりは、はるかに少ない金額の支給となりますから、その後の遺族の生活は困窮したものになる事は明らかです。

政府労災保険の給付では大幅に不足する部分を上乗せして、会社として補償してあげること、さらに遺族と会社の関係が労災事故をもとに訴訟関係にならないために、労災保険の上乗せとして任意労災保険で備えておくことが必要となります。

 

飲食店における労働災害防止対策(厚生労働省)

 

1-4 宿泊業の任意労災保険を選ぶ3つのポイント 


ここまでお読みいただいたように、宿泊業の労災発生状況で、他の業種と大きく違うことは過労死発生件数が極めて多いことです。

もちろん、会社としては過労死を未然に防止する措置を講じるとは思いますが、

長時間労働から万が一、過労による突然死やウツなどの精神障害になる従業員が出てしまった時のために、労働者と会社を守ることができる内容の任意労災保険に加入している宿泊業・飲食店は増えています。

任意労災保険に加入する場合は注意が必要なのは、事故が起こってから、実は「こういった事が補償されない保険だった」ということにならないようにすることです。

 

 

ここでは、労災保険を補完するための「任意労災保険」選びの2つのポイントを説明します。

【ポイント1】遺族からの高額な損害賠償請求に対応できる使用者賠償補償が付いていること

使用者賠償補償は2億円以上の補償額が望ましいと思います。これは過去の労災事故の裁判の判決において2億円近くの場損害賠償判決が出されています。飲食業の労災では、過労死発生件数が全業種の中でワースト3位であることは前述しましたが、仕事の過労で死んだ場合、遺族の心情では会社への心情は特別なものがあります。仕事の犠牲になって命を落としたことで、会社の対応次第では、抑えきれない遺族心情から会社を高額損害賠償で訴えることになります。この高額の損害賠償金の支払いが可能な補償額に加入しておく必要があります。

 

【ポイント2】従業員・アルバイト・パート社員以外の派遣スタッフまで補償対象になっていること

飲食業において、繁忙時期や繁忙時間帯のみ派遣スタッフを依頼するケースがあります。派遣スタッフは自社の雇用した労働者ではありませんが、実際の業務の指揮命令は自社が行いますので、業務に関する管理責任は発生します。そのため労災事故が発生した場合にも、自社の社員同様に任意労災保険において補償対象になっていることが必要です。

 

【ポイント3】労災保険の認定を待たなくても、保険金が支払われること

国の労災保険の認定が決定するまでには、数カ月以上かかることもあります。その間、会社からの金銭的な補償等が何もなかったとしたら、被災者や遺族の会社に対する心情は良いものとは言えなくなります。その感情のもつれや不安から賠償金訴訟に発展することも考えられます。事故が起こった時に素早く会社からの金銭的な補償や誠意を示すことは重要です。

 

【まとめ】

任意労災保険は民間の損害保険会社の代理店を通じて加入することができます。各保険会社とも補償内容は一見すると同じように見えるかもしれませんが、実際には補償内容や保険料にかなりの違いがある場合があります。

自分の会社の業務内容に合った保険を選ぶことはもちろんですが、任意労災保険の保険料は掛捨てのため、保険料はできるだけ安くできる保険を選ぶことが賢明と言えます。

 


宿泊業の任意労災保険の相談は、労災保険・賠償責任保険の専門店【ほけん総研】

山口県・下関・宇部・北九州で地域に密着したサポート 数百社の相談実績から最良の改善策をご提案

宿泊業の任意労災保険の相談はインターネットから受け付けています

宿泊業の賠償リスクと賠償責任保険の選び方

2-1 宿泊業で生じる賠償リスクまとめ
宿泊業における賠償責任リスクは多岐にわたりますが、大きく分けると以下の5つに分類されます。

1.提供した食事を原因として、食中毒などの損害賠償を求められるリスク

提供した料理の調理を原因として、「十分に火が入っていたなかった」や「食中毒菌」「料理に異物が混入していた」ことにより、お客さまが食中毒を起こしたり、ケガをした場合に損害賠償を請求されるケースです。

特に、食中毒においては同時に同じものを食べた複数のお客さまに食中毒被害が発生した場合、その後の対応から解決までに莫大な費用と時間を費やすことになり、自社のブランドイメージが大きなダメージを受けることになります。

2.提供したサービスを原因として起こる損害賠償のリスク

フロアー業務においては、従業員が繁忙時に料理の配膳中にお客さまにぶつかり転倒させケガを負わせたり、熱い料理をお客さまにこぼしてヤケドを負わせてしまったり、配膳中の料理でお役様の衣服を汚してしまったり、というリスクがあります。

また、お役様の荷物やコートなどのお預かりしていたものを、預かり中に紛失してしまったというリスクもあります。

3.自社の建物や設備を原因として起こる損害賠償のリスク

店内においては、エレベーターにお客さまが挟まれケガをしたり、床がこぼれた水で足を滑らせたお客さまが転倒してケガをした場合や、店外においてはお店の看板が落下して通行人がケガをするようなケースなどがあります。

4.お客さまの個人情報の取扱いを原因として起こる損害賠償のリスク

宿泊業や飲食業の顧客囲い込みのツールとして会員特典のカード発行やポイントカードが活用されますが、この場合にお客さまの個人情報を登録することになります。お客様の個人情報が外部に漏洩する事故が発生した場合には、情報漏洩でお役様が何らかの損害を被った場合に、お店に対して損害賠償請求をされるケースがあります。

5.テナント店舗特有のリスク

宿泊業の店舗が自社の所有建物でない場合において、お店から火災を出してテナント店舗を焼いてしまった場合や、店舗の壁や天井、ガラスなどを誤って壊してしまったり、穴をあけてしまった時に、テナント建物のオーナーに損害賠償をしなければならいリスクがあります。

 

 

2-2 宿泊業の賠償リスクで高額賠償請求に巻込まれるケース

【1】食中毒を原因として損害賠償金1億545万円の支払い(平成28年3月)

賠償額:約1億545万円

事案概要:来店した親子がお店で注文した鶏のささ身のタタキを食べ食中毒を発症した。原因は鶏ささ身のカンピロバクター中毒であったが、この食中毒が原因でギランバレー症候群を発症し、四肢麻痺によりその後の生活に介助を要する後遺障害1級と認定される障害状態となった。被害者は40歳の男性で働き盛りであることから、その後の収入などの将来の逸失利益を考慮しなければならないことから、損害賠償金額は1億円を超える金額となった

 

【2】刺身で食中毒が発生、損害賠償金308万円の支払い(平成14年12月)

請求額:742万円 賠償額:308万円

事案概要:調理された石垣鯛の料理を食べて、シガテラ毒素を原因として複数の客が食中毒を発症した。食中毒による治療費用だけでなく、仕事を休業した被害者もいたため休業補償を含めた高額の損害賠償を請求された。裁判では料亭の製造物責任があるとして300万円を超える賠償金の支払いが命じられた。

 

2-3 宿泊業の賠償リスクに備える方法

宿泊業の場合、一定期間にサービスを利用されるお客さまの数は多数にわたり、いったん事故が発生すると賠償の対象が相当数になることが考えられますので、宿泊業の賠償リスクに対応する備えとして合理的な方法は、

宿泊業のための賠償責任保険を活用することです。各保険会社が販売しており、幅広い補償内容です。

保険料は会社の売上や店舗の売上高をもとに計算されることが一般的です。

 

宿泊業の賠償保険で補償される事故原因

・提供した料理を原因として発生した食中毒など

・従業員がお客さまをケガさせてしまった場合など

・宿泊施設の不備によりお客さまがケガをした場合など

・お客さまからお預かりしたモノを破損したり、紛失した場合

・お客さまを無銭宿泊と間違えて名誉を棄損した場合

・テナント店舗で火災を出し、建物を損傷した場合

・お客さまの個人情報が外部に漏洩し、お客さまが損害を受けた場合

 

 

2-4 宿泊業の賠償責任保険を選ぶ5つのポイント

ここでは、宿泊業の「賠償責任保険」を選ぶときの5つのポイントを説明します。

【ポイント1】提供した食品を原因とする事故だけでなく、従業員が提供したサービスから発生した事故も補償できること

【ポイント2】店舗の建物や施設不備を原因とする事故に対応できる補償であること

【ポイント3】お客さまの個人情報を漏洩した場合の補償ができること

【ポイント4】テナント店舗などの借用店舗の場合には、建物を損傷したときの損害賠償が補償できること

【ポイント5】食中毒発生などで店舗が休業したときに、休業損失を補償できること

 

【まとめ】

宿泊業の賠償責任保険は民間の損害保険会社の代理店を通じて加入することができます。各保険会社とも幅広いリスクをカバーできる補償をラインナップしています。

一見すると同じように見えるますが、実際には補償内容にかなりの違いがある場合がありますので、自社の業務範囲にあわせた補償内容の検討が必要となります。

また、賠償責任保険の保険料は掛捨てですから、保険料はできるだけ安くできる保険を選ぶことが賢明とも言えます。

 

 


宿泊業の賠償責任保険の相談は、労災保険・賠償責任保険の専門店【ほけん総研】

山口県・下関・宇部・北九州で地域に密着したサポート 数百社の相談実績から最良の改善策をご提案

飲食業の賠償責任保険の相談はインターネットから受け付けています